ビッグデータのある未来とは
「ビッグデータ」の概念が世の中に広まり出したのは2010年頃のことです。この10年間でビッグデータの実用性は高まり、さまざまな用途に活用されるようになりました。
ビッグデータが持つポテンシャルは大きく、これまではビッグデータがあまり利活用されてこなかった分野にも可能性の裾野が広がっています。
本コラムでは、ビッグデータの重要性や現在までの用途を確認し、これからの活用が期待されている分野をご紹介します。
1.ビッグデータの重要性
ビッグデータとは、さまざまな種類の膨大なデータを指す言葉ですが、地球上で日々、観測・生成されるデータは大量にあり、分析・活用できているのはまだほんの一部です。
どのように活用するか、その目的や方法によって、ビッグデータが持つ可能性は未知数であり、 新製品開発や業務効率化、コストの削減、需要と供給の最適化など、さまざまな課題解決が期待されています。
企業や組織が新たな価値を創出するためには、データ分析力が重要な要素となり、競争における優位性を左右するでしょう。そしてビッグデータ分析には、強力な分析ツールが必要不可欠です。
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2.ビッグデータの用途
2020年3月現在では、具体的には以下のようなビッグデータ活用が実現されています。
業界別にご紹介しましょう。
製造業界
製造業界では、ビッグデータ以前の時代からデータアナリティクスに基づいた生産管理が行われており、コスト削減や品質向上にデータを活用してきました。
主な用途は、以下の通りです。
品質管理
・製造ラインに設置したセンサーにより収集されたデータをもとに、 品質低下の原因となっている製造ラインを特定し、品質改善につなげる。
・認証基準に満たない原材料が使用された際にセンサーが感知し、アラートを出す。
・IoTにより、製造中に得たデータと出荷後のパフォーマンスデータを比較分析することで、継続的な品質改善につなげる。
生産性向上
・生産性向上のために必要な、歩留り分析、サイクルタイム分析、生産性分析などを行い、生産性向上につなげる。
需要分析
・過去の購買データや市場動向、問い合わせ件数などから、需要予測を行って製造数を最適化する。
・IoTにより、製品に取り付けたセンサーから修理が必要な製品数などを把握し、工場の修理対応リソースを調整する。
トレーサビリティ
・製造部品一つひとつのトレーサビリティにより、どの工場の誰によって作られた部品かを把握し、製品に問題が生じた場合の原因を突き止める。
流通業界
流通業界では、商品流通の最適化を図るサプライチェーンマネジメント実現のため、ビッグデータが活用されています。
プロモーション
・顧客データ、購買データなどから顧客を細かくセグメントし、パーソナライズしたダイレクトメールを送付する。
需要分析
・大量の購買データからそのユーザーが次に購入しそうなものを予測し、クーポンなどを発行して購入を促す。
顧客への在庫情報提供
・オンラインショップと実店舗の在庫データを統合し、顧客がWebサイトから欲しい情報を確認すると、どの店舗でいつ試着や購入が可能か把握できるようにする。
売上分析
・各店舗の売上データをリアルタイムに取得し、特定地域で急激に売上が落ち込んでいる商品を検知したら、天候などの地域情報を統合して短時間で原因を特定する。
リテンション
・サブスクリプションなど継続的に購入されるビジネスモデルにおいて、解約されそうなユーザーを早期に予測・発見しクーポン付与などでリテンションを行い、解約を阻止する。
金融・保険業界
金融・保険業界では、与信データや過去の顧客データなどから顧客の未来を予測し、サービス提供やリスク分析に役立てています。
サービスの充実
・車に取り付けたセンサーなどから事故の衝撃を感知し、救急車や保険会社へ自動的に連絡する。
・自社データと与信データから、クレジットカード加入者の信用度を分析し、より良いローンサービスやグレードアップを提案する。
・自社データを元に、事業者向けに簡単な審査申込書で短時間に与信結果を通知し、スピーディに融資を実行する。
リスク分析
・医療データの分析により、加入者の健康診断の結果から死亡・疾病リスクを分析。
・自社データと与信データから、クレジットカード加入希望者の信用度を分析。
通信・放送業界
通信・放送業界では、常に大量のデータや信号が観測・生成されており、以前から視聴率調査などに活用されてきましたが、ビッグデータ時代になり機器やシステムの故障・エラー予測なども行えるようになりました。
利益分析
・新サービスの加入者数予測の精度を高め、収益性を向上させる
・顧客をセグメントし、粗利の低いグループを特定する。
視聴率分析
・テレビやレコーダーの視聴記録から視聴者数を推計する。
・視聴データと商品購入データなどを組み合わせ、広告効果を測定する。
・視聴データとWeb利用行動を組み合わせ、テレビCMとネット広告の統合プランニングを行う。
機器やシステムの故障・エラー予測
・従来はエンジニアが行ってきた機器やシステムのメンテナンス業務を、機器・システムから送られるデータを元に故障・エラーを予測することで軽減する。
Webメディア業界
Webメディア業界では、主にマーケティングにビッグデータを活用しています。
アクセス解析
・Webサイトへのアクセスログデータの解析を元に、見込客に対し、レコメンドやアプローチを行う。
・ユーザーのトラフィックを、経路ごとの流入率、ユーザーの属性、トラフィックの多い曜日などで分析し、Webマーケティング施策に活かす。
・コンバージョンしたユーザーのWeb行動を分析し、ベストプラクティスを導き出す。
・既存顧客のトラフィックを分析し、ロイヤリティ向上につながるコンテンツを把握する。
ソーシャルメディア分析
・SNSに投稿された膨大なメッセージをデータとして分析し、顧客のインサイトを探ってプロモーションや新商品開発に活かす。
公共
ビッグデータは、ビジネス分野だけでなく、社会の課題解決にも活用されています。
気象・地震データ
・気象データや地震データから災害や大地震を予測する
エネルギーの消費分析
・電力などの使用状況データから、災害時の避難状況を可視化する。
犯罪リスクの分析
・過去の事件・事故の発生データ(場所や時間、気象条件や地形など)から、事件事故が起きやすい時間帯と場所を示し、防止につなげる。
・過去の事件の発生データから、連続発生した事件の容疑者が同一かどうかを分析し、容疑者の次の行動を予測する。
車ナンバー自動読取装置(Nシステム)
・走行中の車のナンバーをすべて読み取り、警察の手配車両のナンバーと照合して犯罪捜査につなげる。
選挙速報
・ネット検索データと得票データから、スピーディで精度の高い選挙結果予測を実現する。
3.農業、医療、教育にも
前章でご紹介した分野以外にも、今後は、農業、医療、教育業界でのビッグデータ活用が期待されています。
農業
農業分野では、ビッグデータ活用により農産物の収穫量・質を向上させることにより、農家の収入の向上・安定が期待され、政府主導でデータ活用方針などの整備が進められています。
収穫物の予測
・地域ごと・作物ごとの数十年単位のデータを蓄積し、このビッグデータを元に天候などのデータから収穫量や品質を予測する。
生産性向上
・過去の収穫データ、市場データ、土壌データ、農地データ、気象データなどさまざまなデータを集約・統合し、営農形態に応じた最適な作業計画で作業効率や収益を最大化する。また、農作業の自動化で作業効率を大幅に向上し、高品質な農産物の安定出荷で収益を向上する。
医療
医療分野におけるデータとは、かつては研究者が努力して集めるものでした。そして、集められる母集団もせいぜい数万人規模でした。しかし、レセプト(医療報酬の明細書)データなどをビッグデータとして収集・蓄積できる環境が整い、診断の精度やスピード向上への活用に期待が集まっています。
診断
・過去の患者データを、人種別、性別、年齢別などによる精度の高いEBM(Evidence Based Medicine)に活用する。
・患部の写真からビッグデータを元にしたAIによる画像診断で、来院することなくスピーディに病名を診断する。
教育
教育分野では、教育現場で生徒にPCやタブレットを利用できる環境を整備し、学習ログから生徒の思考・行動パターンを分析し、一人ひとりに合った学習サポートを提供することで、指導の質を高めながら教師の業務負担を軽減することなどが期待されています。
生徒のニーズに合った指導
・問題集などの問題と、家庭教師のプロフィールをビッグデータとしてAIに学習させ、生徒が解けない問題を投稿すると、最適な家庭教師とマッチングする。
・生徒のテスト結果やドリルの解答状況、授業の出席状況や発言回数などから各生徒に合った指導を行う。
教育施策の最適化
・全国児童、 生徒のテスト結果などのデータを分析し、学習指導要領の改訂など教育施策の改善に活用する。
4.まとめ
すでに実用化されているビッグデータ活用もありますが、ビッグデータにはまだ大きな可能性が秘められており、今後さまざまな分野での課題解決や新規サービス創出に期待が寄せられています。
AIやIoTを組み合わせ、進化したICTを用いることで、ビッグデータは業務効率化や潜在需要を喚起する新商品・サービスの開発・提供、社会的課題解決を実現してくれるでしょう。